鼎談「セクショナリズムから遠く離れて」

 

2016年1月6日 於:秋葉原 DMM.make AKIBA

 

根津――根津孝太(znug design 代表)

郡司――郡司典夫(中央公論新社学芸局)

久米――久米泰弘(書籍編集者)

 

 

 

> 第1回 本が出るまえから続編の話

 

 

第2回 本の実用性

 

郡司――たとえば実用的な要素としては、「モノづくり」の話と「会議」の話は、読者がいろんな局面で十分活用できると思います。これからのモノづくりに求められていることとは何か、会議はどうやったらうまくいくのか、そこに具体的なアイデアが出ていると読者には役立つんじゃないか。

 

久米――うん、実際の体験は違っても、根津さんが体験したことと似た事柄が、どれだけ読者にもあるのかというところが、実用に傾く部分なんじゃないかなと思う。たとえばケータイショップのマニュアル対応とか。

 

郡司――あのくだりは、ちょっとクドいかな(笑)。

 

根津――ハハハ、同じ意見(笑)。

 

久米――それだけ腹が立ったんだよ(笑)。

 

郡司――ケータイショップとかファストフード店とか、全国展開しているチェーンは、だいたいそうですよね。

 

根津――でもそんななかにも、キラリと光る人っているんですよ。自分で考えて、目のまえのお客さんの声に応えている。それでいながら、マニュアルを逸脱しているわけではなく、コミュニケーションをきちんとデザインしている。どんな仕事にも、まず自分の感覚で対応するクオリティは求められると思います。

 

郡司――そういう人がひとりいると、次もその店から、ではなく、その人から買おうと思いますね。

 

根津――そうなんです。まえに炊飯器を買おうと思って、家族でヨドバシカメラに行ったとき、メーカーから出向して店頭に立っている人の話を聞いているうち、その人のファンになってしまった。それで、「買います」と。サンヨーの炊飯器ですけど、じつはそれ、いちばん高い商品だったんです。でもそこで思うのは、値段じゃないんですね。ぼくはモノを買う消費者ですけれど、その決め手になるのはまず、対面した人とのコミュニケーションなんです。

 

久米――まったくそのとおり。このあいだも契約しているインターネットのプロバイダから連絡があって、まったくのマニュアル対応で腹が立ってきて。

 

郡司――よく腹立てるね(笑)。

 

久米――マニュアル対応には、ずっと腹を立てっぱなし(笑)。それで最後、もうガマンできなくて、Yさんという女性だったんですけど、「もうわかった、マニュアルはいい。ところで、Yさん、あなたならどうします?」って訊いたんです。そんな質問、マニュアルにはないから、Yさん口ごもってしまった。「内容はわかった。メリットもデメリットもぼくなりに理解したから、Yさんならどうしますか?」。「ええと、わたしなら――」。「じゃあそうします」。結局、マニュアルなんて要らないんだよ。多少口ベタでも、コミュニケーションをきちんととれる生身の人間がいればいい。

 

根津――「あなたがぼくの立場だったら、どう思いますか?」。マニュアルを無化するひと言、いいですね。それに対応するマニュアルもありそうですけど(笑)。

 

久米――だからこの本の実用性を言えば、この本を読んでくれた人のマインドに懸けるしかない。ぼく自身、根津さんの話をずっと聞いて、キーボードをパタパタやっているだけで、なんかちょっと、影響を受けている。根津さんみたいな良い人になるのが、恐い。

 

根津――なにそれ、はじめて聞いた(笑)。良い人じゃないですよ、ぼくは。

 

久米――「あれ? おれってもっと、嫌なヤツのはずだぞ。最近、良い人になってきて、どうも調子が悪い」(笑)。

 

郡司――ハハハ。じゃあ、その話を具体的にしていきましょう。

 

 

> 第3回 「親切」について